回転する集合住宅の反対側の面には、これまた岡崎京子さんの世界を展開します。
岡崎作品には、南の島、極地など、「楽園」がよく出てきますね。
その代表例が、夏休みを迎える高校生カップルの妄想(?)を描いた、「ハワイ・アラスカ」(1988/「TAKE IT EASY」収録)です。
カップルがそれぞれ違う「夢」を語ってケンカする…という微笑ましい話です。楽園というのが、自己愛の世界だということを、岡崎さんは手を替え品を替え描いてきたような気もします。
とはいえ、岡崎さんの描く「楽園」は、どれも活躍の(現実的な)舞台というよりは観念上の空間で、共通するのは人間のいない「コミュニケーション不要の地」というところでしょうか。
「pink」(1989)でも、主人公ハルヲは「小説」というコミュ二ケーション能力の成功によって富を得、楽園に脱出しようとするものの、マスコミュニケーションの暴力により、東京に引き止められるという物語になっています。
人類の死滅した世界なども、同じようなフラットなタッチで頻繁に登場しますが、これも「楽園」の変形だと思えます。
この作品では、岡崎さんの描く楽園の例として「夏の思い出」(1994/「チワワちゃん」収録)のスイカ畑を作ってみたいと思いました。