“何も見えない映画”というと、飯村隆彦さんの初期の作品や、ナム・ジュン・パイクの「Zen for Film」(1961)という先駆があるように、「おかえりなさい、うた」も非常にコンセプチュアルな仕事である。が、思いつくのは易し、実行するのは難し、鑑賞者を座らせ続けるのは尚難し、なのである。
コンセプチュアルな(とりわけミニマルな要素の)作品は、かつての我慢くらべ的な映画(初期のビル・ヴィオラの作品などの、座禅のような芸術)、あるいは現代においては「やりっ放し」系のフォーミュラに陥(おちい)りがちだ。それらのスタイリッシュさ(実は類型性)とは一線を画し、音楽や演劇、ドキュメンタリーの視点や方法を援用する生西康典さんの持ち味は、現代的だと感じられた。
「未知との遭遇(Close Encounters of the Third Kind)」(1977)に登場するマザー・シップの撮影用模型。“ミニチュアの神様”グレゴリー・ジーン作。かつて「スターログ」誌に掲載された中子真治さんの映画ルポルタージュ「SFX-Wizards Scrap-book」は何十回も読んだ。再生紙の、不鮮明な白黒写真も舐めるように眺めたものだ。
すっかり感化されて、「未知との遭遇」や「1941」(1979)に出てくるようなクラッシックな自動販売機やビルボードの模型作りに熱中した。考えてみると、相当ヘンな高校生だが、自分の「美術の見方」の基礎を作ったのは、この連載記事かもしれないと思う。