Realistic Virtuality: Ryusuke Ito

核兵器の模型たち（２）：Little Boy

2018年10月01日
作品制作超群島－ライト・オブ・サイレンス

Little Boy（広島型原子爆弾「リトルボーイ」）

（アメリカ海軍国立博物館、ワシントンD.C.／2013年撮影）

核兵器の模型たち（１）：Fat Man

2018年09月23日
作品制作超群島－ライト・オブ・サイレンス

Fat Man（長崎型原子爆弾「ファットマン」）

（アメリカ海軍国立博物館、ワシントンD.C.／2013年撮影）

広島～台北（２）

2015年07月20日
展覧会・上映超群島－ライト・オブ・サイレンス

被爆70周年記念事業でもある美術展「TODAY IS THE DAY：未来への提案」（7月26日～9月27日）の搬入で、厳島神社で知られる廿日市市を訪問。
会場のアートギャラリーミヤウチにビックリ！2フロアの、広々とした展示空間を持つ芸術施設でした。こちらでは、ヴィト・アコンチ、ダレン・アーモンド、ジョーン・ジョナスリュック・タイマンス、アピチャッポン・ウィーラセタクン、奈良美智、小沢剛作品ほか、伊藤のインスタレーション「そんなことは無かった」を展示。
メイン会場に加え、近隣にある施設2カ所も会場化していてユニーク。まずは通称「グレーハウス」という旧モデルハウスで、ここではビル・ヴィオラとジャン=リュック・ヴィルムート、ローレンス・ウィーナーの作品を展示。もう一軒は「ピンクハウス」（笑）という目の覚めるような色彩の旧住宅で、こちらではピピロッティ・リスト、伊藤の作品「自由落下」が展示されることに。
ご近所的な距離感で、国際美術展を行っているような印象です。

「ピンクハウス」の壁に残された、もとの住人による落書き。

広島～台北（１）

2015年07月19日
展覧会・上映超群島－ライト・オブ・サイレンス

超群島－ライト・オブ・サイレンス（24）：原爆ゲーム（Atomic Bomb Game）

2013年11月13日
超群島－ライト・オブ・サイレンス作品制作

フレームは金属板を曲げたもの、裏面はボール紙製。
A.C.Gilbert Company, New Heaven, Conn（現CT）, USAとある。

現在発売中の芸術新潮（2013年11月号）の「World」欄で、ロンドンのV&A Museum of Childhoodで「戦争ゲーム展」が開催されている旨の記事があった。
その図版のひとつに、1945年のアメリカ製の「原爆ゲーム」という信じられない代物があって、呆れた人もいるだろう。

同じ物が、僕の仕事机の上に20年以上も置かれている。
被爆国の感情としては、あまりに“senseless”、あまりに無邪気な遺物だが、だからこそ、この物体には戦争をめぐる人間の実相のようなものが、あからさまに表出している気がする。
そもそもは学生時代、シカゴの骨董屋で買い求めたものだ。留学生にはやや高価な買物だったが、日本人である自分が持つことが意味のある品のような気がして手に入れた。

この玩具を手に入れて間もなく、フランスから日本へのプルトニウムの海上輸送のニュースが、アメリカのメディアを騒がせた。
NPR（ナショナル・パブリック・ラジオ）のニュース解説での、識者へのキャスターの最初の質問は「日本は核武装を行うつもりなのか」だった。（原水爆については）加害国で、日本の最大の「同盟国」の、リベラル（アメリカでいえば左寄り）のメディアですらこうなのだから、残念ながら戦後日本の平和運動も、非核三原則も、アピールとしては国際的な訴求力が無かったと実感せざるを得ず、やるせない気持ちになった。
何より被爆国自身が、再処理したプルトニウムを欲しているのがジョークのようだった。

当初は、この玩具をめぐる短篇映画を作れないかという思いもあったが、それは若造には難しい芸当だった。
以後、この不吉な品物は机の上から、複雑な感情と共に、アイロニカルなインスピレーションを送り続けている。と共に、自作の意味をはかる物差しとしても機能している。

超群島－ライト・オブ・サイレンス（23）：未来の形⑥

2013年09月15日
超群島－ライト・オブ・サイレンス作品制作

長々とジョン・バーキーについて書いてしまったが、それは、彼の1970～80年代の仕事に特筆すべき物があったからだ。
「未来の形」の表現とは、描かれた時代の科学技術のトレンドや、それをベースにした時代の期待感を結晶化した、造形としての予言とも言える。今まで触れてきた例を整理すると：

　①スピード感を表現した流線型
　②回転体など普遍的な構成の立体
　③その幾何図形にゴテゴテしたディテールを付与するリアル版
　④デッド・テックも含めた、自己増殖型

といった辺りだろう。
そこに独自の解釈を持ち込んだのが、ジョン・バーキーのキャリアと、画法の白眉とも言える、一連の宇宙SFイラストの宇宙船だ。

超群島12

基本的にはボーンステルや、その後継者とも言えるロバート・マッコールのような、流線型（あるいは幾何形態）のハッピーな未来感の造形だが、それらの曲面に切れ目や分割を加え、そこに直線を階層的に組み合わせたような構造物を挿入している。
幾何形態のアールの乱暴な中断は理想主義の変更を感じさせ、複雑な積層は等身大の現実主義を連想させる。しかし、全体像としては、価値や目的の多様性と（なおかつの）ユニティへの意思を感じさせる点が、デッド・テックのようなニヒリズムとの大きな違いだ。

ボーンステルの描く宇宙ステーションが幾何図形なのは、回転（遠心力）によって人工重力を発生する仕組みを意識しているからだが、バーキーはそれを無視して地上の建築のような階層構造を採用している。上記の作品が、シドニーのオペラハウス（設計はヨーン・ウツソン）などから造形的なインスピレーションを得ていることは明らかだが、近代（進歩主義）の造形に切れ目を入れてゆき、そこに歴史的な連なりのイメージを借り、付加している。むしろ、その方向性の違いの共存、折衷が、バーキー作品の魅力であると言える。
描いているのは「宇宙船のイラスト」だが、結局のところ、想像上の自由な造形であり、現実の形からそのキャラクターのみを抽出し、純粋な形象化やコラージュを行っている。その結果、ポスト・モダン彫刻と呼んでもいいような作品が仕上がっている。

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上はステラの「モビー・ディック」シリーズ、下はフランク・ゲーリーの「Hotel Marques de Riscal」

バーキーのポスト・モダン的な仕事というのは、少なくとも、帝冠様式的なポストモダニズム建築の御都合主義とは一線を画していると思える。
80年代のステラの仕事やフランク・ゲーリーの近作に出会ったとき、驚くことはなかった。ゲーリーの仕事は、フィリップ・ジョンソンの仕事と比較すると明らかな断絶や革新が感じられたが、バーキーの作品の脈略から見れば飛躍はない。つまりバーキーの仕事は、我々の生きる「現代」の感性、つまり「未来」を描いていたと言えると思うのだ。

超群島－ライト・オブ・サイレンス（22）：未来の形⑤

2013年08月15日
超群島－ライト・オブ・サイレンス作品制作

ジョン・バーキーの「キングコング」（1976）のポスターは、見れば見るほど面白い。端正に描かれた実直な画法と荒々しいタッチの折衷は、アメリカの近代そのものを連想させる。

その「端正に描かれた部分」にある世界貿易センタービル（設計者はミノル・ヤマサキ）の、ゴシック建築風の装飾（パイプ構造）の精密な描写は、どうしたってグラント・ウッドの、タイトルもそのままズバリ「アメリカン・ゴシック」（1930）を思い起こさせる。建材をはじめとする工業技術の優秀さと、国家としての短い歴史からくる文化についてのコンプレックス（しばしばヨーロッパからの借用となる）が、50年近くを経ても共通に現れる。

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上は「キングコング」のポスター（部分）、
下は「アメリカン・ゴシック」（部分）

アメリカ美術には、戦後の主役であるジオメトリックな抽象（オキーフ→ネオダダ→ポップアート→ミニマルアート→いろいろ）をＡ面とすると、Ｂ面には素朴で実直な写実主義という流れがある。
というか、このＢ面こそがアメリカ絵画のそもそもの流れであり、かなり乱暴な分類をすれば、画家のウッド、アンドリュー・ワイエス、イラストレーターのノーマン・ロックウェルなどはこの系譜になる。誰でも解る明解な画で、清々しくもあるが、美術作品としての（歴史的な）テーマ性には乏しい。風景や生活描写などが多く、戦後のアメリカ美術史の「印象派以降の世界芸術の後継者」というストーリーとは齟齬が大きい。
ニューヨーク近代美術館でも、ワイエスの「クリスティーナの世界」は人気作ながら、いかにも展示場所（どのコンテクストに並べるか）は難しい印象で、たいていはエレベーターホールとか廊下に展示されている。

ARTNET MAGAZINEより

こういう機能的な画風は、工業製品と同様に、アメリカの視覚芸術の美徳でもある。それゆえイラストレーションやマンガのような「技術的な絵画」で真価を発揮する。「ＳＦ画家」としてのバーキーの先達には科学イラストレーションのロバート・マッコールがおり、ＩＤ出身のシド・ミードも、アメコミのアレックス・ロスもみんなこちらの流れだ。
イラストレーターという職業をかなり尊敬している僕にとって、日本では素晴らしいイラストレーターがいつのまにか「画家」を名乗って（古くさい「絵画的」な主題や技法に退行して）いたりしてガッカリすることが多いのだが、アメリカの「絵描き」たちにはほとんどブレが無い。
たとえば、ロックウェルもマッコールも、晩年の仕事は壁画やキャンバスだったりするが、長年のテーマを象徴的にまとめる（ロックウェルは単純化し、マッコールは集積する）のがその主だ。むしろ、マッコールがNASAなどのために描いた画を見ると、あからさまにロックウェルからの影響…というか、イラストレーターとしての「系譜」についての自意識を強く感じるのだ。

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上はノーマン・ロックウェルが得意とした、観念的な群像の一作「Spilit of America」（1974）、下はロバート・マッコールの油彩画「Dream」

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対照的に、コングの手に握られた戦闘機は、ほとんど印象派的なタッチで効果的に描かれている。
これから彷彿されるのは、ロバート・ヘンライら「ジ・エイト」のタッチだ。従来の写実主義の作品に対して、ヨーロッパの最新動向（印象派ですな）をアメリカ美術に移植しようとした東海岸の流派だ。

ヘンライ「 The Laughing Boy（Jobie）」（1910）
「Crashing Surf or Flying Spray」（1903）

「ジ・エイト」の流れはアメリカの近現代美術の源流、少なくとも起爆剤になっていく。
この流れの巨匠といえばエドワード・ホッパーだが、もちろん、その後の抽象表現主義のような抽象画ではない。「抽象的な表現や空間処理も多い具象画」というスタイルであり、結果的には前出の「素朴な写実主義」とネオダダの間のミッシングリンク的存在と言えるかもしれない。
ホッパーの魅力とは、細密画に陥らない、絶妙な「寸止め」のタッチだが、イラストレーターがサムネールやラフスケッチなど短時間で仕上げる、しかし着彩が的確な画の魅力とも共通だと思う。「SFアート」でも、「スターウォーズ」などのコンセプチュアル・デザインで有名な、ラルフ・マッカリーのスケッチに見られる。（逆に、マッカリーが後年に制作した細密的なイラストレーションには、それほどの魅力は無い。）

ホッパー「 Sunday」（1926）
マッカリーの「宇宙空母ギャラクティカ（チカ）」（1978）コンセプチュアル・スケッチ

ずいぶん脱線してしまったが、ジョン・バーキーの作品には、二つのアメリカの価値観の潮流がせめぎあっているとも取れるのだ。
（つづく）

超群島－ライト・オブ・サイレンス（21）：未来の形④

2013年08月05日
超群島－ライト・オブ・サイレンス作品制作

映画の宣伝イラストレーションや、ペーパーバックの表紙画で著名なジョン・バーキーの1970年代の仕事には、ずいぶん先駆的なものがあった。
バーキーのイラストで有名なのは、なんと言ってもアーウィン・アレンの「タワーリング・インフェルノ」（1974）。ほかにもジョン・ギラーミン版の「キングコング」（1976）、「オルカ」（1977）などの動物パニック映画、中年のSFファンだと「スターウォーズ」（1977）のノベライズの表紙を洋書屋（という職業がかつて存在した）の店先でよく見かけたはずだ。とにもかくにもこの人のスゴイ点は、映画の内容を5割増、いや9割増で面白く見せてしまうことだ。パニック映画（特に駄作の）には欠かせない。

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バーキーのイラストレーションの魅力は、粗い筆のタッチで「動き」（現在のCGで言うブラーの効果）や、モノの構造のリアリティ（特に重層的な構造になっているビルや機械）を的確に表現することだ。
それらのラフなタッチと、反対に精緻に描かれた部分との対比が、効果を引き立たせる。「タワーリング・インフェルノ」では一枚の絵に映画のハイライトシーンが（時系列と関係なく、同時に）はめ込まれている。精密なビルの描写（エレベーターの屋根にはスティーブ・マックイーンが乗っている！）に対して、クライマックス・シーンの炎と水の荒々しい描写が動感を呼んでいる。
「キングコング」では、今は存在しない世界貿易センターをひとまたぎしたコングの右手に握られた、戦闘機のジャンクの質感がとてもリアルだ。（映画にはこんな場面は無い。ちなみに、センター越しのニュージャージーの地平線が、エドワード・ホッパー的な絶景だ！）
バーキーのタッチの真骨頂とは、直線と面によるモダニズム建築や国際様式の高層ビルなどを破壊する時に現れる。言ってみれば、近代の論理性やそれに象徴する造形に隠蔽されていた、現実世界のカオスを引き出した作家と言えるだろう。

超群島－ライト・オブ・サイレンス（20）：未来の形③

2013年05月24日
超群島－ライト・オブ・サイレンス作品制作

キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」（1968）に登場する木星探査船ディスカバリー号や、ルーカスの「スターウォーズ」（1977）に登場する宇宙巡洋艦スターデストロイヤー級は、「Mark.1」とデザインのコンセプトを共有する幾何学的な形態でありながら、その表面には凸凹した室外機や配管、モジュールなどが突き出ている。
ディスカバリー号の形は精子がモチーフ、くさび形のスターデストロイヤーは正しくリシツキーのポスターを連想させる前衛性（芸術用語ではなく、軍事や政治用語上の）と攻撃性を持った、すなわち「近代」の未来観だった。その量感を維持しつつも、細かいパーツによるマチエールで巨大感やシステムの複雑さを演出する方法は、「かつての未来」の造形と「現代」の造形の、上手い折衷案だったといえる。

1号機、2号機を実際に制作してみて難しかったのは、「Mark.1」には、そういうスケール感のとっかかりになる形が無いことであった。つまり、高さ40mものスケール感を表現することは難しかった。なので、作品では前述のSF映画の常套手段を採用して、表面に凸凹を加えてある。
自分の手を動かしての問題解決の実感では、「Mark.1」を支える造形思想は、視覚的にはすでにその命脈は絶たれている印象が強かった。

ちなみにテレビシリーズ「宇宙大作戦」（1966）のエンタープライズ号は、「Mark.1」の系列の造形となる。1979年の映画版「スタートレック」が制作されたころには、その楽天的な未来観の漂うデザイン自体に違和感が濃厚だった。とはいえ、有名なデザインに大きな変化を与えることも出来ず、表面の塗り分け（反射率の違う塗料の使用）によって、アップデートを図っている。

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超群島－ライト・オブ・サイレンス（19）：未来の形②

2013年05月20日
超群島－ライト・オブ・サイレンス作品制作

時と共に「形」も劣化すると書いたが、「Mark.1」に代表される幾何学的な造形は、ある種のユートピア志向の形象化だったと言えるだろう。

実際には、人間が作る巨大な構築物というのは、目的と結果が釣り合う「納まりのいい形」には完結しない。
機能を可算法的にどんどん拡張し、修正に継ぐ修正を経ていった結果、凸凹が、トンガリが増えていって、最終的には蟻塚のような形になるようだ。その現実を象徴するのが、戦艦長門やソ連の空母の艦橋や、九龍城砦のような複雑な造形だろう。
人間の、増幅する欲望の形とも言える。

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超群島－ライト・オブ・サイレンス（18）：未来の形①

2013年04月05日
超群島－ライト・オブ・サイレンス作品制作

実際に「1号機」の格納容器を作りながら感じたことは、これがかなり「変な形」だということだった。フラスコみたいな形の下に、ドーナツ状の物体が串刺しになっていたりしている。人間の生活感覚やスケール感（高さは40メートル以上ある）からは現れてこない、不思議な造形だった。
ケプラー的と言おうか、幾何学的と言えば幾何学的だが、計算の中だけに存在するような、不自然な印象の疑似回転体なのだ。強度的には無理がある構造で、模型としても壊れやすく厄介だった。宇宙空間では成立する立体なのかもしれないが、地上では周囲を厚さ数メートルのコンクリートで固められて自立している。

メカとしても、ボーンステルの描く昔のSFアートに登場するような、いや、ボーンステルを参考にした本多猪四郎の「宇宙大戦争」（1959／デザインは小松崎茂）や深作欣二の「ガンマー第３号宇宙大作戦」（1968）など、日本の特撮映画のメカという感じだ。

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上からチェスリー・ボーンステルの科学イラスト、「宇宙大戦争」、「ガンマー第３号宇宙大作戦」

どちらにせよ、未来派のピストン型の造形や、流線型のT型フォードのように、その時代の夢を体現した形と言えなくもない。そして、多くの美術運動や美術がそうであるように、形というものも陳腐化あるいは経年劣化するものだ。