Realistic Virtuality: Ryusuke Ito

現実的な仮想性: 伊藤隆介/制作の周辺

黄金町バザール2012(14):展覧会終了!



「黄金町バザール2012」も終了!
ご鑑賞いただいた方々、お手伝いいただいた方々、事務局の皆さま、本当にありがとうございました!

Blogでは、もう少し制作についての話を続けたいと思います。

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黄金町バザール2012(13):サイト・スパシフィックな仕事

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僕が会場に選んだのは「ちょんの間」だった。
要するに「商売」の現場の空間。180cm四方程度だから2畳くらいのスペースで、天井までの高さも2mくらい。本当に狭い。

いわゆるサイト・スパシフィック(site specific)型のインスタレーションの難しさは、作品が「場の力」に負けてしまうところ。
現実に使用されていたロケーション(既存の建築物や廃墟など)は、ホワイトキューブ(美術館の展示室)のような抽象的でニュートラルな場所ではなく、その場所固有の歴史や存在感を持っている。その場所の「現実感」は、機能性や欲望、組織と個人、人間のいい加減さなど、カオス的に堆積された時間であって、しょせん作家が机上でひねくり出した想像やディティールでは(少なくとも情報量的には)太刀打ちできないことが多い。

こういう場合に、作家がまず行う典型的な方法は「借景」だ。
閉鎖された商店、工場、廃校など、その「場所の力」を借りて、その場所の持つ記憶やストーリーについて視覚的な(大抵の場合は感傷的な)コメンタリーを述べる。一見、よく出来ていると見える作品でも、場所そのものの魅力や迫力の尻馬に乗っている場合が多い。墓場で怪談をやるようなもの。
と言っても、展覧会の主催者側はその場所に特別な思いを持っている場合が多く、作家もいい人(あるいは気の小さい人)が多いので、地域の意向に批判的なものにはあまりならない。つまり、造形的にもテーマ的にも、「場」に付加する装飾品としての作品となりやすい。会田誠さんのように、人を食った態度(作品や所作)で煙に巻く…という方法論もあるが、これは芸風でもあって一朝一夕には出来ないだろう。“冷笑的”というのも、信用商売なのだと思う。

地域の歴史をリサーチするのは作品制作の基本だが、それを拡張して土地の人との対話を行い、それを視覚化するというのも、最近のトレンドな方法だ。
地域の子どもたちの“未来の夢”などを大型の絵画や映像に起こしたりするこの方法は、バブル経済のころ、ゼネコンなどがリゾート開発の土地買収の際など世論形成によく利用していた。なんにせよ、作家はその土地に短期滞在しかしない場合が多いので、深い視点になりようがないし、海外からのレジデンス作家が日本で桜とか富士山とか歌舞伎とか産業遺跡をモチーフにするような観光的な(浅い)作品になりがちだ。
この場合、発表形式として「ドキュメント」(写真や資料、パワーポイントなどで示す)が使われることも多い。多くの人はそれに不自然さを感じていないようだが、美術表現の歴史では、こういう視覚伝達の方法はゴールズワージー、ボイス、キーンホルツ、あるいは60〜70年代のコンセプチュアル・アーティストなどが開発した、いわば50年前の表現だ。
ドキュメントの展示は、パネル展示や配布物など、ビジネスや博覧会展示などの視覚伝達デザインの手法で行われることも一般的だ。ほとんどのドキュメントが、タイポグラフィから余白の取り方かたまで60年前の国際様式のスタイル。サイト・スパシフィックな活動を行う作家は、反物質文明や多文化主義を主題や信条にしている場合も多いが、そいういったホワイトキューブの出自を否定するようなテーマを、ホワイトキューブから直結した様式で発表するパラドクスも散見されるのが残念だ。

上記のような典型に陥らずに、サイト・スパシフィック作品を作るのは、実はなかなか難しい。
場所(そのものや、その成り立ち)と対峙しながら、新たな空間(と鑑賞者)を支配する規範が必要になってくる。
正攻法は、カプーアキーファーのように、極端にデカいものを置いて、主客転倒を狙うという手。しかし、これは相当な作家力、政治力、主催者力が必要になる。
実際にスタンダードなのは、目には目を…で細かい単位の造形物などを大量に配置する方法だろう。多くの場合、予算的な都合で軽量な、あるいはパーマネント(に見える)な環境との対比から“はかな気”な素材になる。すなわち、紙、糸、ペーパーマルシェなどの手びねりの造形物、大量生産の安価な玩具などだ。草間彌生さんをルーツに2000年代までは効果的な話法だったが、川俣正さんを経て、藤浩志さんの「かえる」「やせ犬」、塩田千春さんというチャンピオンが登場し、現在は禁じ手になっている(と思う。)

レイチェル・ホワイトリードは、ヴェネチア・ビエンナーレテートギャラリーの展覧会で、上記の典型(デカい、並べる)をそれぞれ臆面も無くやっていたけれど、彼女の作品の代表的な手法(発明ですな)は、言うまでもなく、大きさとか数ではなく(それも大切だけど)「負の空間」を造形することにある。彼女の作品は、廃屋そのものを“型”(モールド)として利用し、空間自体の“複製”をコンクリートなどで制作する。上記リンクの「階段みたいなもの」は建築物の階段室の空間をコンクリに移し替えたものだし、大量の箱みたいなものは箱の中身を樹脂に移し替えたものだ。つまり「不在」を造形化している。
ロケーションの落歴の記憶や意味は、鑑賞者がそれぞれ、その「負の空間」の中で発見すればいい。しかし、その「不在」を、明るく、かろやかに提示するというのが彼女の真骨頂、つまり「表現」なのだ。

と、語るは易し。制作は難しい。

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黄金町バザール2012(12):ロケーション

伊藤作品「天地創造」は、京急黄金町駅から徒歩1分の、川沿いにあります。
(クリックすると周辺図の拡大画像が見られます。 )

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さらに詳しい地域情報は、黄金町エリアマネジメントセンターのアクセスページへ!
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黄金町バザール2012(11):レジデンス

レジデンス打ち上げ

今回は、レジデンスの初の国際公募が行われたということで、何人もの外国人作家が滞在制作を行っていた(らしい)。
路上でちらほらと「それらしき人」ともすれ違うのだが、他のプロジェクトのスタッフや、単に近所の人(多くの韓国、中華系、タイの人たちなどが住んでいる)、さらに海外からの観光客もいるので、誰が滞在作家はわからない。
オープニングも終わって帰国する人もいるので、送別会(というか打ち上げ)が行われ、ようやく全貌がつかめた(ような気がする)。5週間も外国でいっしょに制作したということで、皆、仲間になっている。また、同年代の黄金町のスタッフとも仲良くなっていて、二次会はカラオケに消えていった。いいなぁ。

僕が彼らくらいの年齢のころは、暗室にこもって映画制作に没頭していた。アーティスト・イン・レジデンスなんて存在は、ぜんぜん知らなかった。
留学などをしたとしても、それは「その土地」のローカル・アーティストになるのと同義だった。インターネットもメールも存在しないから、外国にいることは、自国の情報やネットワークを捨てるということでもあった。その反面、「その土地」ではマイノリティだから、地縁も血縁もないストレンジャーとして、自分の文化的ルーツ(それはなけなしの武器でもある)を意識せざるを得ないという二重性もあった。
それでも、今考えれば、世界はシンプルだった。

若いうちからアーティストが世界中を横断する時代、ホームであれアウェイであれ、自身の存在理由も大きく変化しているに違いない。
ローカリティやエキゾティシズムに囚われない自由さの反面、価値や話法の共通化に陥る可能性も避けられない。昔風に言えば世界市民的…とロマンチックだが、今日はグローバリズムと紙一重だ。「ストレンジャーであることの世界標準」というような立ち位置を駆使している人もいるけれど、たいがいは、視点が「他人事」だから、作品も大雑把でつまらない場合が多い。
「黄金町バザール」の作家たちは、どこにいくんだろうか。

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黄金町バザール2012(10):横浜での制作環境

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横浜には2週間近く滞在して、ちょっとしたレジデンス滞在だった。
とはいえ、アトリエで早朝までずーっと模型制作だったので、いつもと変わらず。
彫刻の設営!とか、小学生と交流制作!とかいう、ダイナミックさの無いレジデンスで申し訳ない。

模型制作について言えば、京急の二つ隣りは横浜駅で、東急ハンズもヨドバシカメラもあって、札幌にいるよりも便利だった。
さらにモデラー・鈴木賢くん(造形工房 Mark.1)に教えてもらったラッキーベイフォートさんは本格的な模型店で、ジャンル・品数共に豊富だった。しかも仕事場と現場の中間にあり重宝した。友情に感謝、感謝です!
このお店には、ホントに毎日、多い日は1日3回くらい通ったので、意外な(一方的な)地域交流をしたと言えなくもない。工具と塗料と材料はいいとして、自動車、鉄道模型、飛行機、ミリタリー…とまったく脈略のない買物をしていたので、怪訝に思われていたと思う…。
店の方々はとても良心的で、エアブラシの変換金具とか(ジオラマ用に使う)ベニア板を求めると、店頭在庫があるのにもかかわらず、「ホームセンターで買う方が安いよ」と熱心にアドバイスしてくれるのだった。

鈴木賢くんは「Model Graphix」誌時代の旧友で、ベテランのプロモデラー。最近は「水曜どうでしょう」フィギュアで有名らしい。大学生時代の友人が、吉田ひでお師匠の造形物を商品化しているんだから、人生は不思議だ。

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黄金町バザール2012(9):オープニング

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「黄金町バザール2012」も開幕!
内覧会のあとのオープニング・レセプションは人、人、人!
アート関係者、メディア、自治体などの人(スーツ)のほか、町内会、商店街の人々がたくさん参加しているのがいい感じだった。市長さんなどと並んで、警察の偉い人が「アートで地域が良くなった」などとご挨拶をするのが、この土地の持つユニークさだ。
なんとも「アートのためのアート」という、固い雰囲気が無い。かといって、北海道でよく見る「町づくり」系/建築・土地計画系における「社会ツールとしてのアートの実践(=実際はアートやアーティストを営業活動や、机上の空論のために使うだけ)」みたいな、そらぞらしさ、お仕着せがましさも無い。本当に、町の人たちが関わっている雰囲気がある。これがうれしかった。

とはいえ、レセプションの途中で現場に戻ったので、「アーティスト紹介」の際には会場に居なかったという…。ゲスト・アーティストだったのに。
スタッフの皆さん、すみませんでした。とほほ。

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黄金町バザール2012(8):街角では

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「黄金町バザール」は京急線の、日ノ出町駅と黄金町駅の間の高架周辺で行なわれる。
現在、日ノ出町のお隣りの長者町に滞在、制作中。路上では様々な外国語が飛び交い、和食を食べる場所を探すのが難しい。「ブレードランナー」というよりは、崔洋一監督の「花のアスカ組!」という雰囲気か。

日ノ出町の駅前にも、サインが貼られていた。明後日がオープニング。

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黄金町バザール2012(7):ボランティアの皆さん

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スタジオ付近で、団体さんとすれ違った。
「黄金町バザール」のボランティアの皆さんだった。今日は、下見ツアーとのこと。
企画者、作家だけでは、展覧会はできない。
本当にありがとうございます。

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黄金町バザール2012(6):高架下のスタジオ

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搬入のため、横浜に戻ってきた。
今まで工事中だった、高架下の新しいスタジオ群も完成していた。高架(上は京急線が通っている)とは思えない、開放感のある、きれいなデザインの建築物だった。
屋根となる高架の下に、もう一つ屋根をあしらったような意外性のある造形。これが、コンクリートの「万里の長城」になりがちな構造から、閉塞感を取り去っている。
こけら落としとして、「黄金町バザール」では何人かの作家が展示会場として、このカッコいい空間を使う。

対照的に、僕の発表場所はやっぱり、昭和っぽい、ちょんの間(笑)。
が、スタッフの皆さんの努力で、発案した通りの空間に仕上がっていた。
高架下スタジオに匹敵する面白さで、うれしかった。

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黄金町バザール2012(5):レジデンス・アーティスト

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黄金町・日ノ出町には多くのアーティストが居住したり、活動している。黄金町エリアマネージメントセンターを通して物件を借り、何年もアトリエを構えている作家たちも、長期の「レジデンス・アーティスト」という括(くく)りのようだ。

町を歩くと、商店街のあちこちに9月10日のブログに写っている竹本真紀さん(いちばん右側に座っている方)の、カートゥーン風の画を見かける。それも、あまり美術とは関係なさそうな店の入口などで。この地に住み、地元の方たちと日々向き合いながら活動している雰囲気が伝わってくる。
また、アニメーション作家で画家で造形作家の照沼敦朗さん(写真)のように、「黄金町バザール」に先乗りして、会場に2ヶ月も泊まり込んで制作している参加作家もいる。照沼さんは、彼自身も水木しげるさんのように飄々としていて魅力的な人だったが、壁のみならず床も天井も使った展示は、彼の脳内に入っていく感じで迫力があった。完成が楽しみだ。

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黄金町バザール2012(4):物件について

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会場を下見させてもらった。
「黄金町バザール」では、かつての店舗などが、作品発表の場所として使用されている。会場として改装され、会期後はアーティストのスタジオ等として使用される仕組みのようだ。
下見も、美術館の展示室のそれとはずいぶん違う。なにしろ店舗として使われた跡がそのままで生々しかったり、現在は物置になっていたり、不動産屋の「物件めぐり」という感じだ。
数ある建築物の中でも、「ちょんの間」が圧倒的に面白い。あまりに不自然、人工的な空間で、そのままでインスタレーションだ。作品発表の場所としては手強いが、そこも面白い。

※写真は上から、比較的新しい「ちょんの間」の外見と、その内部。異常に狭い。下は、物置に使われている旧飲食店(?)の内部。ここはアメリカの作家・リチャード・グチャレスさんが使う旨。

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黄金町バザール2012(3):ロケーション

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横浜市中区の黄金町、日ノ出町界隈での大型アート・プロジェクトである「黄金町バザール2012」に、ゲスト・アーティストとして呼んでもらった。

この地域は戦後直後から青線などの歓楽街であったが、2005年に機動隊まで投入されて売春業を一掃、地元町内会や商店街の人々が、アーティストのスタジオやギャラリー、店舗などを誘致して地域の活性化に挑んでいる。
旧工業地域や犯罪率が高いエリアなど、居住にはリスクの高い地区、要するに床面積に対して地代の安い地区にアーティストがアトリエ村を作り、そのうちカフェやクラブ、ギャラリーなどが出来て、やがて観光バスが停まる安全な「名所」となる。
アーティストを入れることが地域の活性化につながった、60〜70年代のソーホー等に代表される事例が、日本でも実験的に行われていると言っていい。特に横浜市などの行政が積極的に介入しているのが珍しい。この地区で毎年開かれているアート・フェスティバルが「黄金町バザール」。

この辺の経緯については以下をはじめ、多くのサイトで取り上げられているので、参照してください。
 ・はまれぽ.com「横浜のココがキニナル!」
 ・黄金町エリアマネジメントセンター「まちづくり」


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黄金町バザール2012(2)

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日曜日の「黄金町バザール」のプレイベントは、アーティストトークだった。
しでかすおともだち、竹本真紀さん等、いわゆる「プロジェクト系」のアーティストの人たちが、レジデンスで滞在中の商店街の人たちと、この土地の歴史や現在について話し合うという内容だった。「自分たちが地域に住むこと」にどういう意味があるのか。僕らが若いころは想像したこともないことを、かなり真摯に考えていて感心してしまう。
1960〜70年代のジョージ・マチューナス、ジャッド、メカスという人たちも、かつてのソーホー地域の開発には関わった(というか街自体を作った)が、作家それぞれの「仕事」は造形性が高い作品(つまり絵画や彫刻、映画作品として物理的に完結する)で、「モノ」として社会を異化し、感覚的に提示してきた。それに対して、コミュニケーションそのものを表現方法として使っている現代の若手作家たちは、真剣に対応すればするほど、表現は現実社会の作法と近くなってしまう。ダイナミズムやスケール感、ダイナミックなショックバリューを提示するのは難しくなってゆく。これは、かなりシンドイことなんだろうとも想像がついた。
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黄金町バザール2012(1)

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黒澤明の「天国と地獄」のモデルとなった、横浜の黄金町はアートとレジデンスと若者の街に変貌しつつある。数年前までは大人も歩くのがちょっと怖かったエリアだった…というのは、地元の人の弁。現在は子どもが走り回る、まさに最先端事例。
今日はプレイベントのスタートだったようで、地域の初黄日商店会による「ナイト・マーケット」。レクチャーもあるけど、ビールに、屋台カレーに、コンテンポラリーダンス。カジュアルな手作り感が、とてもいい。
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伊藤隆介
映像作家/美術作家
ときどき評論執筆

Ryusuke Ito
Filmmaker/Artist
Part-time Critic
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